太陽を探す


最近、太陽に似た星を執拗に探している。そこで太陽と似た星を探すのは意外と難しいということに気づいた。あれ?わたしの専門は小惑星だったのになあとふと思う今日この頃。小惑星の反射スペクトルを得るためには、反射というだけに入射光で割る必要がある。しかし、太陽と同じスペクトルを持つものは極めて少ない。特に、紫外波長では吸収線などの影響が顕著に見える。G2V型であったとしても、金属度やCN, CHの存在度によって紫外波長のフラックスは大きく異なる。太陽に類似した星を探すことは近年は系外惑星の視点から、多くなされているようだ。大きく分けて、3つのグループに分けられているようだ (Cayrel de Strobel 1996)。
– Solar twin
質量、化学組成、温度、重力、年齢、電磁的な特性などが太陽とほぼ同じ。
– Solar analog
金属度[Fe/H]が太陽の2倍以内(Soberblom & King 1998)
– Solar-type star
主系列星もしくはサブジャイアント星、温度が5000K~6500Kの間で、かつスペクトルタイプがF8V-K2Vの間。(Soberblom & King 1998)
上から順に強い制約となる(つまりSolar Twinが一番太陽に似ている星)。私の場合には、重力や年齢、電磁的な特性については比較的どうでもよく、スペクトルが同じ星を探したいので、Solar analogの中からスペクトルに特化して似ているもの探すというのが一番近いだろう。しかし、実際のところ、Solar analogでさえほとんど太陽のスペクトルと一致しないのだ。

歴史的には、Hardorpによって、1978年から太陽に類似する星に関する一連の論文が発表されている。彼は77のSolar-type starを調べた。最初の驚くべき結果は、400nm以下について太陽のエネルギースペクトルを見ると、G2VではなくG4Vのエネルギー分布に近いという点だろう。昼の空のスペクトルと同じスペクトルを持つものはほんの数個しか見つからなかった。Hardorpが発見した色がかなり太陽に似た星は、その後どれも真のSolar Twinではないと結論された (Cayrel de Strobel et al. 1981)。先にも言ったが、私の研究にはSolar Twinか否かは争点ではないため、現在もHardorpが発見したHyades 64は最も太陽に似たスペクトルを持つ星だと考えいる。現在に至っても、完全なSolar Twinというのは見つかっていない。太陽とはなんと特殊な星か。

ちなみに、なぜ太陽そのもののスペクトルを使わないのか?という疑問がでるところだが、少し考えれば理解できるように太陽は非常に明るい。肉眼でも見れないものをどうやって大型望遠鏡で見れようか。ちなみに、太陽の色でさえ、多くの議論があり、B-Vの推定は様々あれど0.62-0.69の広がりを持つ(Gray 1992)。この問題は太陽だけではなく他の明るい星にも言える。明るい星ほど、歴史的に細かな特性がわかっており、太陽類似星もそういったサンプルの中から発見される。また、系外惑星の観測をする上では、明るい星の方が都合が良い。つまり現在発見されている太陽類似性は多くのものが9等星よりも明るいものである (e.g. Yana Galarza et al. 2021)。これで何が問題かというと、10m級の大きな望遠鏡で小さな小惑星のスペクトルを測りたい時に、こういった星は明るすぎて使えないのである。つまり、暗くて太陽に似たスペクトルを持つ星を見つけないといけないという難題にぶち当たるわけである。もちろん時間が経てば、徐々に暗い類似星が発見されていくのは想像できるが、それを待っていても仕方がない。太陽に似てるかもしれない星を探しては、観測する日々である。

Cayrel de Strobel, G. (1996) “Stars resembling the Sun” The Astron. Astrophys. Rev. 7, 243.
Soberbolm, D. R., and King, J. R. (1998) “Solar Analogs: Characteristics and Optimum Candidates, Lowell Observatory” p.41
Hardorp, J. (1978) “The Sun among the Stars” Astron. Astrophys. 63, 383.
Gray, D. F. (1992) “The inferred color index of the Sun.” Publications of the Astronomical Society of the Pacific104(681), 1035.
Yana Galarza, J. et al. (2021) “Searching for new solar twins: The Inti survey for the Northern Sky” MNRAS 504, 1873.

最近の女性研究者を増やそうという動きについて

スペインでは、基本的にどの委員会にしても、男女は半々で構成されるべきという考え(ルール)がある。これは日本にはあまりない考え方で、日本はどちらかというと、新しく採用する人について男女比を無理くり是正しようとしているように思える。選ぶ側、もしくはルールを作る側を男女半々にすることに対する重要性についてあまりピンときていないのではないだろうか。おそらく多くの男性の方でも、出産や育児が大変だという「知識」はあると思うのだが、意図的ではなくルールを作るときに思い至らない見過ごされることがあるのだと思う。

例1:さてコロナになってルールを作りましょう、となった時に男性が思う最初の問題は仕事のリモート化だと思いますが、女性だったら育児どうしようということになるかもしれない。ルール作りに参加するのが男女平等でないと、少数の方が見落とされるのが常だろう。今ある構造的な問題はそうしたことが積み重なったことではないかと最近思うようになった。

例2:新しく人を採用しましょうとなったときに、就職を希望する女性が「子供を持つことを希望します」と言うことを考えてみる。その受け取られ方は男女の委員で大きく異なるのではないか。女性だったら「そうだよね〜」となるところ、男性だったら「仕事に穴が開く」と言う考え方になってしまわないか?(わたしが悲観的なだけだといいが。)

そう思うと、選ぶ立場の人間が男女半々であることはかなり男女数のバイアスを減らす(また、男性にとってもマイナスにならない)ことにつながる。男女平等とは男女を同じように扱うことではなく、男女の違いがあることを認めて共生していくことかなと個人的には思う。
ところで、うちのボスは女性ですが、常に委員会に呼ばれるので忙しすぎると嘆いている。男女半々でないことの歪みですね。余談になりますが、例えば何かの研究プロジェクトを男性だけで構成したりすると(偶然であっても)冗談で男子グループとう揶揄される(冗談ですが)のがスペインの研究者コミュニティ。

可視化のすすめ(1)

論文を書くときにいつもハマる罠。可視化地獄にそろそろハマらないようになりたい。そして何より美しい図を作れるようになりたい。これまでは論文を書くこと、グラフが読めることが何よりの優先事項だったが、そろそろいい大人なので可視化の方法も洗練させていきたい。特にS誌やN誌はこの辺り、とてもうるさい。海外の大きなプロジェクトでも可視化の色などには気を遣っていることもわかりました。私の参加していたプロジェクトではテーマカラーのようなものが決まっていて、特にハイインパクトのジャーナルへはそのテーマカラーを使って統一感を出しているようでした。特に観測データ屋さん的には見た目が大事。たかが見た目、されど見た目。

特に科学雑誌に投稿するにあたって気にすべきこと(もはやマナーのようになっている)は色盲の人にも理解できる作図である。ただ、色盲でないがため、どのように選べばいいのか難しいところだ。赤と緑を同じ図に使うな、というのが基本方針だが、中間的な色はどうなのだろうかとか疑問が湧いてくる。そんなときに便利なツールを発見した。Color Cycle Picker (https://colorcyclepicker.mpetroff.net/) は色を選んでいくと、色盲の人に識別しにくい色を取り除いていってくれるので、色盲の人に優しいカラーセットを作ることができる。これまで、Matplotlibのデフォルトの色を使うことが多かったが、これで私的に美しい色のセットを作れそう。

ポップ
f22d5f, #881063, #5c6fdf, #45bce3, #83fed6, #d1d931, #8b9297

Wa
fb9ed0, #97bd47, #a31b23, #484e5a, #fce8a2, #4469b8, #96706d

アース系
3e98b1, #768834, #2e5f42, #c5b72b, #7144a0, #a3c9fa, #fdeea5

Pythonによる実装は
import matplotlib.pyplot as plt
from cycler import cycler
plt.rcParams['axes.prop_cycle'] = cycler(color=['#4E79A7', '#F28E2B', '#E15759','#76B7B2','#59A14E', '#EDC949','#B07AA2','#FF9DA7','#9C755F','#BAB0AC'])

海外学振ポスドクに向けての準備(留学やワーホリも当てはまる)

これまではIACに直接雇われていたのですが、今度から海外学振を始めるにあたって準備していることを書こうと思います。ただし、もともとIACで働いていたことからビザの申請などの必要はなかったので、それについては書きません。最初にビザを申請した時も多分そんなに大変ではなかったですが、東京の大使館に行くのが面倒。ビザとパスポートは流石に誰も忘れないと思うので、ちょっと見落としがちな点について書いておこうと思います。今後、学振や留学、ワーホリでスペインに行く方の参考になれば良いなと思います。

銀行口座の開設

  • ソニー銀行(渡航前)
    ソニー銀行に円で入金しておいて、現地通貨に変換すると手数料がかなり安くすみます。また、日本の銀行への振込が月に数回無料でネットから操作できるので便利です。また、キャッシュカードにデビットカード機能がついているので、口座から直接支払いができます。ユーロの貯蓄がない最初の頃はこれで暮らしていました。この口座は日本でないと開設できません。
  • N26(渡航後の方が簡単)
    これは海外学振に移行するにあたって作りました。ドイツの銀行らしいですが、スペインの銀行口座番号(IBAN)がもらえます。こちらもスペイン内の銀行への振込が月に何回か無料です。これまではCaixa銀行の口座を使っていたのですが、給料の振込がないとスペインの銀行は口座を持っているだけで非常に高い料金を支払わなければなりません。最近はN26のような店舗を持たないインターネットバンクも増えていて、そういうところだと口座を保持する手数料がかかりません。N26にしたのは開設が簡単そうで、日本への送金も簡単そうだったからです。N26の開設はNIEを持っている人だとスマホで10分くらいでできますし、2週間程度でカードは郵送されてきます。さすがドイツクオリティです。
    招待コード:erit4565
    この招待コードを登録の際に入力すると5ユーロ8/31まで40ユーロもらえますのでよければお使いください。

健康保険への加入(渡航後)

現地で雇われていた時には、スペインの国民健康保険に自動的に加入されていたので、医療費は基本的に無料でした(もちろん社会保障料を払っているからです)。しかし、海外学振となると奨学金なのでスペインの国民健康保険には入れず、私設の健康保険に入ることになります。流石に2年になると日本の海外旅行保険では結構高くなってしまいますので、スペインの保険へ加入することにしました。Mapfre、DKV、Sanitas、Adeslasあたりが有名どころでしょうか。価格設定も似たようなものです。その場で治療費を払わないCopagoと治療費を一部払うSin Copagoというのがあります。色々と考えるのが面倒だったので、Copago〜55 Euro/月にしました。
歯科の保険も込みか確認しておくことも重要と思います。歯科はCopagoでも2割くらいしか割引になりませんので日本滞在中に行くのが吉。

運転免許証(オプション)

  • 国際運転免許証(渡航前)
    これは日本の運転センターで発行されるので、日本にいるうちに取得せねばなりません。ただ国際免許証は1年しか使えません。毎年帰国する予定だったら毎年申請すればいいのですが、長期滞在だとスペインの運転免許証を取得する必要があります。
  • スペインの運転免許証(渡航後)
    DGTという交通局が取り仕切っています。ただひたすらに書類を集めるゲームですが、私は領事館に運転免許の翻訳(?)を取りに行ってから、だいたい1ヶ月程度でスペインの仮免許をもらうことができました。その後1ヶ月後くらいにスペインの運転免許がもらえました。

最近の話

研究所から有給を消化せよとの圧力が強く、今月は公式な勤務日は4日になりました。日本だと流石に強制的に消化させられることはないと思うのだけど。こういう点を見ても、仕事の捉え方が日本とスペインで全く違うことがわかります。必要な仕事さえしていれば、他は自由。特に他人の目を気にする事もありません。

私の上司も女性で子供が一人。いつも楽しそうに娘さんの話をしてくれます。旦那さんも同じ職場で、交代で娘さんの送り迎えに行ったりしています。おそらくスペインには学童保育みたいなものがないので、3時くらいになると家で両親どちらかが面倒をみないといけません。なので、3時くらいに子供のいる研究者はサーっと帰っていく姿が見られます。特にスペインはお昼が遅いので、3時まで働いて家でご飯というのも珍しくないです。これが当たり前なので、当然みんなこの状況を受け入れています。もちろん、その後も家で働いているのですが。日本だと家で働くと言っても流石に人の目を気にしますよね。特に研究者は自宅でできる仕事も多いはずで、自宅勤務に向いている仕事の一つのように思いますが、そういう根本的なことよりも日本では何時間オフィスにいたという形式的なところが優先され、評価されています。新型コロナウィルスの登場で、この状況も少し見直されたのではと期待していますが、こういうちょっとしたことの積み重ねが女性の社会進出を妨げているように思えてならないです。

上司が女性であることは幸運で、ロールモデルとして貴重な存在です。海外では特に女性研究者は日本よりも随分多く、とても勇気付けられます。また、色々な働き方がある事もわかります。いわゆる日本のように教授を目指して競争するというモデルの他にも、時間の自由度を優先するような働き方もあります。ただ、日本ではそのような枠組みはないので、画一的なモデルに陥りがちのように感じます。私の場合にはスペインに来る前にも1ヶ月ほどアメリカに滞在した時に、共同研究者の方の家の一角に住まわせてもらっていました。その時に、彼女の1日の流れ、母としての仕事、仕事に対してのスタンスなどを見て、衝撃を受けました。海外に出てみると、日本はとても特殊な社会なんだなと気づきます。日本にいるとなかなか気づくことはできないですよね。

東方三賢者の日

昨日は東方三賢者(Reyes Magos)のお祝いでした。聖書によると、キリストが生まれたお祝いに三人の占星術者(天文学者)がそれぞれ貢物を持ってくるというイベントがあります。それにちなんだお祝いです。写真のラクダに乗っているのが三賢者です。スペインではなぜか三人の王様ということになっていますが元は占星術者だと思います。子供達は1月6日にこの王様たちからクリスマスプレゼントをもらいます。つまり、サンタクロースの代わりですね。三人いるのでそれぞれの人気度合いも違うのだとか。

日本ならサンタクロースが登ってくるであろうところ、三人も王様が登ってくるのである。

1月6日は王様の王冠に似せた、Roscon de Reyes(上の写真)を食べる風習があります。生地はケーキというよりパンであっさり。ただし、クリームが大量に挟まれ、砂糖漬けのトッピングが飾り付けられているので、想像に難くないと思いますが甘いです。しかしこれでも一般的に売っているケーキよりは甘さ控えめなので私は好きです。このロスコンの前にそこはかとなくお立ちになっているのは、王様のフィギュアでケーキの中に入っています。これを引いた人は王冠を被って王様になれるというシステムです。ガレットデロアによく似ていますね。どちらかが真似したのでしょうか。もう一つ、豆も入っていて、これが当たると次の年にこのロスコンを買ってくるという罰ゲームが付いています。ちなみに去年はなぜか王様じゃなくてマトリョーシカみたいなフィギュアが入っていて、「ん?あたりなのか?」となったのを覚えています。

1月6日をもってスペインの長いクリスマスは終わりです。大体の人は7日から仕事始めで、私も今日から仕事始めです(自宅勤務だが)。プレゼントはいらないので賢者になりたいと思うのでした。

クレイジーな1年

歴史に残る1年でした。

コロナの長期流行も全く予期しませんでしたし、勤務形態もガラリと変わって、適応能力の試される1年であった気がします。わたしの仕事は基本的にはデスクワークがメインなので、自宅勤務でもほぼすることは変わりません。ただ、やはり気持ちの切り替えは大事なようで、最初は自宅勤務に慣れるのに時間がかかりました。ロックダウン中はもちろん毎日自宅勤務だったのですが、本当に切り替えが難しかったです。自宅にいるといろんなことが(主に家事)目についてしまって、どうしても気になるのですよね。6月末あたりから週2回の研究所勤務に変わりましたが、結構ホッとした面もありました。いきなりのロックダウンではインターネットやプリンタ、ワーキングデスクなど色々不備があり、徐々に環境を構築しながらの挑戦となりました。会議は日本、北米、スペインとあったのですがオンラインのせいで、自分のいる場所がわからなくなる現象が起きました。ふと、ここにいる意味があるのだろうかと思ったことも。

最近では自宅勤務にも慣れましたが、やはり研究室の方が効率が良いなと思うこともしばしば。もう少し落ち着いたら研究室に通う頻度を上げようかと思います。

研究の方は学会への渡航などがなかったことが奏功したのか、効率よく論文が書けたような気がします。はやぶさ2論文量産フェーズはそろそろ終わりかな。ただし、プロポーサルはかなり落ちているので、来年が少し不安ではあります。地上観測もっとしたい・・・来年はここにいて良かったと思えるよう、現地活動に力を入れていきたいと思います。しっかり方向転換しなければ。

年末にははやぶさ2の本当に今年一番輝かしいニュースがあったので、なんとか正気を保って新年を迎えられそうです。

Welcome back, Hayabusa2!

なんという完成度。
はやぶさがあってこそのはやぶさ2ではあるが、それにしても出来すぎではというくらい全てがうまくいったミッションのように思える。実際に、はやぶさでは挑戦しなかったランダーやSCIという装置もあり、たくさんの初めての挑戦をし、成功を収めている。MINERVAII-2も窮すれば通ずという感じで、結局は大きな成果を挙げた。

わたしにとって、はやぶさ2が初めてのミッションだった。初めは何もわからないままはやぶさ2の打ち上げを見に行き、ONCチームの会議に参加するようになり、画像を解析するようになり・・・いくつか印象に残った場面を書き残そうと思う。

リュウグウ到着から遡ること4ヶ月前の2018年2月26日、はやぶさ2は初めてリュウグウの姿をその目に写すことに成功した。リュウグウのはやぶさ2から見た明るさは、距離だけでなく位相角(太陽ーリュウグウーはやぶさ2)に依存するところが大きく、この時は位相角が小さい絶好のチャンスだった。本当にリュウグウはあるんだろうか?という半信半疑の中、ONCで可能な最長露光180秒。これだけだと宇宙線やノイズがたくさん。これを丁寧に取り除くと、点ではあるけれどそこにリュウグウが写っていた。本当にあったという当たり前の感想と、これからここに向かって行くのかというドキドキ感があった。

6月に入ってからはやぶさ2は徐々にリュウグウに接近。毎日(毎時間?)はやぶさ2から送られてくる画像を楽しみにしていた。日々わかっていくリュウグウの形に驚きが大きかった。特に、5ピクセルくらいで見えていた時に、「ん?これはダイヤモンド型?」となったのをよく覚えている。以前の地上観測による研究からは球形と予想されていたので、そんなわけないよな?と思っていたのをよく覚えている。この時の教訓は先行研究は疑ってかからないといけない、だ。さらには、極のあたりに輝点が見えることもわかってきた。これが乙姫ボルダーだった。

夏の暑い日、リュウグウに到着してカメラのチェックを行い、初めての科学観測は1自転分光観測。複数のフィルターで撮像した画像を重ねることで、表面の色の変化がわかる。初めに気になったのはリッジにある青色の帯だった。わたしはイトカワの画像解析もしたことがあったので、その色の分布がイトカワのそれとかなり違うことに驚き、嬉しかった。これは、その後の解析で表面の物質が剥がれ落ちた部分と思われている。訓練の擬似リュウグウとは全く違う様相で、予想を裏切られる形になった。これからこの小惑星の謎解きが始まった。

一通りの観測が終わり、初期成果論文の方針が決まったところで、わたしの中では仕事がひと段落した(と感じた)。よく考えると、わたしは到着してすぐに次のポストが決まって、ミッションのちょうど半分あたりで日本を後にした。ちょうどNASAのOSIRIS-RExが始まり、両者の結果が出揃ってきたあたりだ。形状が似ていたので、ほとんど同じような小惑星だったらどうしようかという不安があったが、杞憂に終わり、特に水質変成という点において全く違うことがわかった。この両者の比較はまだ始まったばかり。

ミッションという意味での完成度は高かったが、カメラだけについて考えると、まだまだ改善点はあったのだろうなというのが正直な感想。わたしが開発したわけではないが、この6年間おそらく最もONCの画像を見てきたから、学ぶ、こうだったらいいのにと思うところが多くあった。PSF、迷光、キャリブレーション、オンボード処理・・・特に、他の探査機の画像も見てみると、長所短所が明らかになる。今の所、完璧なカメラはどの探査機を探しても存在しない。カメラは探査機の目、必要不可欠な存在。最高の目を作って、太陽系の歴史を明らかにするというのが今後の目標になりそう。

ところで、10年前のはやぶさの帰還時、何をしていたかを思い返してみると、わたしは大学院生で当時の研究室の仲間と再突入を見守っていた。全くはやぶさとは関係ない研究をしていて、さらには全く惑星科学ですらなかった。流れ行くはやぶさを見て、最後に撮られた地球の姿を見て、こんな探査に関われたら楽しいだろうなと人ごとのように思っていた。その頃、今の自分は全く想像できなかったな。ただ、ずっと変わらず宇宙に関わっていたいという気持ちがある。わたし自身もこの10年の間に大きなスイングバイをしたおかげで今があるような気がする。これから10年後、目標に近づけるよう、はやぶさ2を見習って日進月歩。

プロポーサル日和

カナリア諸島は良くも悪くも季節感のない島ですが、果たして何が季節を感じさせてくれるでしょう。

秋がくると思い出す。プロポーサルと学会発表。
日本にいた時は科研費に苦しむ時期ですが、今は望遠鏡のプロポーサルに苦しむ日々です。来年に向けてマシンタイムを獲得したい。。。最近はコロナの影響がもろにあり、JWSTが延期したりチリの望遠鏡の公募が出なかったりと、なかなか世知辛い状況です。それでもカナリアの天文台は通常通り募集がかかったのでありがたいです。高倍率必至な感じですが、頑張ってプロポーサル書くぞー